聖地には蜘蛛が巣を張る、を見てきました。
ヒューマントラストシネマ渋谷です。
アリ・アッバシ監督のスリラー映画ですね。
アリ・アッバシといえば、ボーダーや、マザーズなどの奇妙な世界観のスリラー映画を撮ってきています。
活躍は主にヨーロッパですが、今回は一転して舞台はイラン。
監督はもともとイランの人のようで、当時実際に起こった連続殺人事件を着想にしたスリラー映画になっています。
割と中東映画は結構見るんですが。
この映画は、アリ・アッバシ監督の映画であり、中東映画、という感じは、あまりありません。
というのも、主人公はジャーナリスト。
イランで起きてる娼婦連続殺人事件を追う、という話になっているのですが。
殺されるのが娼婦ということもあり、中東では珍しく、
キスシーンや、セックスシーン、オーラルセックスなどの描写があるからです。
さすがにセックスシーンはダイレクトに見せていませんが、この事実がまず、中東では描いていはいけないからです。国によっては、男女が車の中に一緒にいるだけで逮捕されます。
出して髪、肌を出すなんてもってのほか。
そんな中東を舞台にして、髪の毛は当たり前に、それ以外の諸々を赤裸々に見せている。
この時点で、中東では制作してないことがわかるからです。
まず、映画として作れるわけがない。
だから、アリ・アッバシが、ヨーロッパ合作のもとに作った映画、なんですね。
ヨーロッパ合作じゃなければ、この映画を作ることはできなかったでしょう。
イランは、最近でこそ、デモや暴動のイメージが強いですが、割と欧米文化が濃い土地で、女性のヒジャヴのかぶり方にも寛大な方でした。
そのイランを舞台にした、
中東映画としては描けない、裏側を描いている、それがこの映画なんですね。
連続殺人事件を起こす犯人は、割と冒頭に出てくるんですね。
彼至って普通の人間なのだけれど、その彼が殺人に駆り立てられたのは何故か。
中東圏に存在する女性蔑視の文化を如実に映し出しているわけですが、これの興味深いところは、女性すらも、娼婦たちのことを
殺されて当たり前だ、汚らわしい。と吐き捨てているところです。
それはまるで、日本で路上で酔っ払ってぐでんぐでんの女性が犯罪に巻き込まれてしまったり、薬を盛られて襲われてしまった女性などに対して、
女性のガードが弱いからだ、そんなになるまで酔っ払うのが悪い、と言ってるようにも感じるわけです。
結局のところ、男女差別、男尊女卑の文化というのは、根深く残っているのではないだろうか、と色々考えさせられるわけですね。
中東映画では、娼婦を題材にした映画を観たことはありませんでしたが、10歳ぐらいで60歳ぐらいの男性に嫁ぐ、という文化もあったりするわけで、やはり見るたびに色々考えるわけです。
前半部分はスリラーやホラーの様相を呈しているわけなのですが、この映画のさらに興味深いところは、犯人が逮捕されてからの裁判なのです。
殺人は悪いものだ、という概念が、ひっくり返ってしまう、そんな社会があるわけです。しかも、それは一人の男の頭の中だけではない。
思想や文化というものは根深い。
しかし、映画見て思うのは
これ良く作れたよな、ってこと。
これを世の中に出す、ということは、どう考えても反発にあうわけで、もしかしたら、殺されかねない。
それに、撮影とかどういうふうにやったんだ?って。
だからこれは、結構衝撃的なんですよ。